I.T.'S.international JOURNAL ファッションと地球のこれからを考える
Vol. 02 I.T.'S.international イメージモデル NOMA/ノーマさん

(Vol.1 より続く)
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実際の活動範囲も、そして興味の範囲も、モデル・アーティストという肩書を超えた引き出しの多さ!
ノーマさんとのインタビューのような座談会のような…素材や日本ならではのこだわった技術について、これからますますトークは深まります。

NOMA:エシカルを追求している人たちの間で常に話題に上がる素材はやっぱりオーガニックコットンです。 それから、サステナブルシルク、リネン、あと、私は竹の素材も好きです。つるっとした滑らかなテクスチャーが良いですね。 あと、もっと知りたいと思っているのがキュプラ。これも土に還る素材なんですよね。キュプラって、実はコットンリンターからできているんですよね?

I.T.'S.international(以下I.T.'S.):そうなんです。 キュプラの原料であるコットンリンターとは、コットンの種の周りに生えている産毛のことで、通常は綿糸としては使用されない部分です。 このわずかな素材だけを集めて、独自の技術でピュアな再生繊維として生まれ変わらせた繊維がキュプラです。

I.T.'S.:本来なら綿糸として使われない種子の周りをうまく活用して始まった素材。 まさにエシカル、です。もともとはシルクの代替品として開発された、れっきとした土に還る素材ですよ!

(これは綿花がキュプラの糸になるまでの過程をイメージにしたものです。)

I.T.'S.: キュプラ素材はそれだけだと縮んだり、洗うとしわになったりするので直接水洗いには適さないのですが、ウールやコットンなどとブレンドすると独特に柔らかい風合いがでてとても美しい。ニットでも布帛でもカットソーでも使える素材です。
I.T.'S.でも特にエコ素材として力を入れています。

NOMA: なるほど。名前は知っていましたが細かくは理解していなくて。あと、この商品についている『ベンベルグ® 』っていう言葉がキュプラと関係しているっていうのが知らなかったです。

I.T.'S.: 『ベンベルグ® 』は旭化成が持つキュプラの登録商標ですね。キュプラは一般素材名ですが、『ベンベルグ® 』は旭化成が持つブランドです。実は今世界どこを探してもキュプラを作っているのは旭化成だけなんです。まさに「ジャパン素材」なんですよ。

NOMA: すごい!そうなんですね。ますます勉強しないといけない素材!(笑)

I.T.'S.: I.T.'S.では旭化成さんの『ベンベルグ®』を使っていろんなブレンドを試みて素材開発をしています。このCuoo™(クー)という素材もその一つです。

旭化成さんはC O 2 排出の制限など環境問題にも積極的に取り組んでいる企業です。我々も一緒に取り組んでいこうと思っています。

NOMA: どこにあるんですか?

I.T.'S.: ベンベルグ工場は、宮崎県延岡市にあります。

NOMA: えーっ、私学生の時にバイトで延岡行きました!すごい親近感!(笑)

I.T.'S.: そのベンベルグ®の糸で我々が積極的に作っているのがホールガーメント®のニットです。

NOMA: 脇や袖に縫い目がないやつですね。

I.T.'S.: そうです! 縫い目がないので、着用時に体に当たる部分がないので、とても着心地が良いのですが、一方でコンピュータでプログラミングされた機械で一発で作るので切ったり貼ったりしない分、糸や素材のロスも出ない、これもエコな機械なんです。

NOMA: 確かに。すごーい。

I.T.'S.: ホールガーメント® 機というのは島精機さんという和歌山の企業のものなのですが、もともとは軍手を作る機械を作っている企業さんだったそうです。テレビとかにも何度も取り上げられていますが…縫い目がなく軍手を編み立てていけるなら、大きくしたらお洋服も一回で編めるのでは?という発案から始まったそうです。

NOMA: 確かに確かに!すごーい!中指作らないで、手と足のところの頭をあけておいたら大きな軍手の作り方でオールインワンですもんね! 笑すごい!日本の技術!

I.T.'S.: それだけじゃないんですよ、この話。このホールガーメント® 機を使ってI.T.'S.では寺田ニットというメーカーさんにニットの製作を依頼しているのですが、同じ機械を持つ他のメーカーさんに同じプログラミングで依頼したところ、全く違うものが仕上がってきたんです。

NOMA: えーっ!なぜなぜ???

I.T.'S.: ベンベルグ®の入った素材は風合いなどを重視しているので、結構柔らかい。 寺田さんはそこを踏まえて職人さんが色々カスタマイズしてくださっていたんです。 機械に風を当てて柔らかく機械が糸を取り込んで編めるように、とか編み機の微妙なテンションをしょっちゅうチェックしたりとか。

I.T.'S.: ホールガーメント®機はそもそもコンピュータで制御されているので、人がいなくても2 4 時間稼働が可能というのが売りだったのですが、 やっぱり素敵な製品に仕上げるためには常に人間の、それも熟練した職人さんの細やかなチェックが必要だったんです。

NOMA: すごい良い話じゃないですか… 大量生産をすると商品は画一的で味気なくなってしまう、でもそこに職人さんのスキルを少し加えることで商品に温かみや深みが増すんですね。

I.T.'S.: 職人技といえば、これも見てくださいね。



NOMA: なんですか?これ。すごい!回りながら編まれている!すごい面白いじゃないですか?

I.T.'S.: I.T.'S.のスウェット生地を作ってもらっている工場なんですけれども、これも和歌山の東紀繊維さんというところで編み立ててもらっている吊り裏毛という機械なんです。 スウェット生地を上からゆっくり吊り下げながら編み立てることによって空気をより多く含んでふっくらとした風合いに仕上げる。 なんと1 時間に約1 メートルしか編めない。スピード勝負の現代の対極を行っている機械…( 笑)

I.T.'S.: この機械は明治から大正時代のもので、だからこそ時間のかかる贅沢な仕上がりとなるのです。 この技法で編み立てられる機械はもう5 0 0 台くらいしか残っておらず、部品ももう再生できないらしいです。

NOMA: じゃあ、壊れたらもうおしまい?

I.T.'S.: 必死に保全するために努力していらっしゃいます。この頃はこういう古い技術に関心を持つ若者も増えて、職人も少しずつ若返って来ているので。 なんとか続けていきたい日本の手仕事の一つです。

NOMA: ぜひ現地に行ってみたい! たしかにこのスウェット生地、分厚くて無骨な見た目なのに、すごく優しい手触りです。

I.T.'S.: 先ほど申し上げた通り、1メートル編むのに約1時間。1日に5枚くらいしか製品は生産できません。

NOMA: エコな素材の手配から、このような素晴らしい技術まで、このブランドでは使われているんですね。 それなのに、一方でより多くの人が少しでも求めやすい価格の追求、つまりバリューということにまで取り組んでいらっしゃるんですよね???

I.T.'S.: そうなのです。もっとこういうこだわり抜いた職人技についてはこれからもより皆さんに伝えて行きたいですね。 結構何気なく着ていただいているものにも我々の想いと技術の努力がぎっしり詰まっているのです。この他にも来年春にデビューする新しい素材もあります。 まさにNOMAさんが求められている肌に近いものをよりサステナブルで、気持ち良いテクスチャーで、ということにこだわった商品です。

NOMA: どんどん出て来て終わらない…(笑) それはまた本当に楽しみです!


今日お話を伺って、改めてアパレルの技術やデザインの奥深さを感じました。
普段何気なく袖を通している身近なアイテムなのに、そこにはぎっしりと詰まったこだわりと技術と想いがある。

コロナと向き合う事となった2020年、数年前から注目され始めていたサステナブルやエシカルなムーブメントが、トレンドだけではなく日常に根を下ろし始めたり、社会の在り方やQOL(Quality Of Life) 、消費に対する価値観など、社会全体的に改めて見つめ直すことが多かった一年だと思います。
コロナによる自粛期間中、#EarthStudyと言うタイトルで、地球を知る、自然と調和して生きるライフスタイルとは? そんなコトをテーマに専門家やナチュラリストを招いてのトークセッションをSNSで発信する連載を行なっていましたが、予想以上に反応も多く、今人々が求めているコトが変化して来ているのを痛感した時間でもありました。

情報が溢れ、尚且つ忙しいと心と身体がバラバラになりがちですが、自分にとってのゼロの状態や心地良いリズムを知っておくこと、そして戻る時間を意識して作る事は大切。
自然と触れ合ったり、自然の摂理を取り入れたライフスタイルは、本来の自分のリズムへと調整してくれる部分があるんですよね。
生活の中で身近なファッションを通しても、そんな視点は大切にしていたい。

肌の触れ心地が良い自然由来のエシカルな素材、環境配慮を意識した技術革新、それに加え日本ならではの職人の手仕事やクラフツマンシップの文化を一着を通して体感できる、今回I.T.'S. internationalから学ばせていただいた事は今後のファッションを楽しみにさせてくれます。

I.T.'S.: そうなんです。我々ももっとこういうこだわりの部分をきちんと見える化させて伝えていかないとなぁ、と改めて思いました。

デザインやトレンドを推してくるファッションブランドはたくさんあるけれど、長く使えるサステナブルな素材開発や飽きのこないエッセンシャルデザイン、それに必ず伝えて行きたい日本の職人のこだわりや手仕事、そういうことに真剣に向き合っているところはまだ少ないんです。 我々はすべて包含してこのブランドを作り上げて行きたい、それでこそお客さまが価値「バリュー」として感じてもらえるだろう、そんな気持ちで我々もブランドの10周年を迎えています。

NOMA: 私もぜひとも吊り裏毛の技術で何かコラボしたい!

I.T.'S.: ぜひぜひ!今は難しいけれど、和歌山に行ってコラボ企画練りましょう! NOMAさんが今求められているようなことは、これからもっと世界から求められていくと思います。我々もどんどん開発を進めて行きますので、ぜひコラボをお願いします!

―― ということで、コラボ企画のお約束までして無事に終わったこのインタビュー。長くなってしまいましたが、モノづくりの現場の躍動感を、このインタビューから感じてもらえると嬉しいです。 これからもI.T.'S. internationalとしてのバリュー(価値)へのこだわりをこのような形で色々お伝えできれば、そしてそれが貴方が自分のブランドを選ぶ時の礎になれば、嬉しいです。

NOMA  モデル/アーティスト 佐賀県出身。幼少期より生命や宇宙の神秘、地球環境に関心を抱く。在学中に国際関係法律を学びながら参加した海外ボランティアやインドへの一人旅を機に、上京後モデルとしてキャリアを積みながら諸国を巡り、旅エッセイを出版する。
2012年より旅先での啓発や自身の自然観を元にプロダクトや空間のプロデュースをスタート。
同時期にアップサイクルでの作品製作も始め、アートワーク等としても使用される。2019年に初の作品展示を行う。フッションからビューティー、サイエンス、エコロジーなど幅広いジャンルで対談やイベント出演を続ける。
自然科学の案内人、そして様々な団体のアンバサダーとしても活動中。

instagram@noma77777
http://noma-official.com/

ベンベルグ®は、旭化成株式会社の登録商標です。 B00Z306
WHOLEGARMENT®及びホールガーメント®は株式会社島精機製作所の登録商標です。